全国初のデフバス運転士。かつて世間に叩かれながらも挑戦し続けたポジティブ思考|松山建也(東京バス株式会社)

INTERVIEW

デフ(聴覚障害者)が働いてるという前例がない業界に入社するときのハードルは今もまだ高いかもしれない。
 
コミュニケシーションはもちろん、仕事上の配慮方法や職場仲間、お客様クライエントとの関わり方など課題は山積み。
 
今回は損保ジャパン「手話通訳サービス」のCMに出演し、全国初デフバス運転手として最近SMSで話題になってる松山さんに仕事上取り組んでる配慮方法や、初めてのデフとしてバス業界に入社したときの様子などを直接聞いてみました。
 

提供元:YouTube「損保ジャパン公式チャンネル」

 

【松山建也(まつやまたけや)】東京バス株式会社運行管理部/運転士。大宮ろう学校専攻科卒業後、銀行特例子会社、トラック会社を経て東京バス株式会社入社。損保ジャパン「手話通訳サービス」CM出演。

 
 

松山さんの配慮方法

責任のある配慮

ハーマ
ーー現在バス会社で働かれてますが、バスを運転する仕事にあたって松山さんはどのような配慮をされてるのでしょうか?
 
松山
大きな荷物を積むお客様に対して降りるバス停(ターミナル)を聞く際にはこちらの質問カードを使い、お客様に指差してもらうようにしてます。

降りるバス停を聞くときに使う質問カード

 
松山
こちらはご乗車いただいたお客様が私たちに御用がある場合、車掌・ペアになる運転士(以後「交換運転士」とする)交換運転士までお声掛け頂くようにお願いするプレートです。

車掌・交換運転士に声掛け頂くようお願いするプレート(提供:松山さん)

 
ハーマ
この質問カードとプレートは誰が考えて作られたんですか?
 
松山
質問カードは私が独自で考えて作ったもので、プレートは会社から提案頂いて一緒に作ったものです。自分が必要だと考える配慮方法については自分で考えたり、会社と相談して一緒に考えるよう行動しています。
 また、声が必要な車内放送は交換運転士や、車掌さんに代わりにお願いしています。
 
ハーマ
松山さんが運転されるバスにはもう一人同社の方が乗ってるんですね。
 
松山
はい。現在私が担当している長距離高速バスでは、二人体制で休憩を挟みながら運転をしております。特に高速道路では事故や通行止め、渋滞などでSA(サービスエリア)の変更や到着時刻をお知らせしなければならないと場合があります。
 その場合、到着時刻を予想して自ら車掌にアナウンス内容をお渡しし、話してもらうことがあります。
 
ーー(必要な配慮は求めても、仕事を丸投げにするのではなく自分も責任を持ってその仕事に取り組むようにしてるそうだ。)ーー

松山さんは起動しテロップが映し出されたモニターを背に語りつづける。

 
松山
こちら(モニター画面)は私だけへの配慮でなく、乗っていただいたお客様の中にデフがいることも想定して作られたテロップです。このテロップがあれば耳の障害の有無かかわらずみんなが情報を得ることができます。
 
ハーマ
これ、車内放送が聞こえない私たちにとっては役に立ちますね!
私も夜行バスを使うことがあるんですけど、車内放送が聞き取れなくて今どこを走っているのかわからないので、スマホのgoogleマップで現在地を調べてるんです(笑)。
 
松山
デフにとってはこのモニターのテロップがありがたいですよね。私のバスで使うことはあっても、他のバスではまだ使われてないところが多いので、これから増えるといいですね。
 
 

バス運転士への道のり

松山さんが運転するバス車内の写真

 
ハーマ
ーー松山さんはどうしてバス運転士になろうと思ったんですか?
 
松山
バス運転士になることは私が小さい時からの夢でした。大きなバスを操るバス運転士を見ていつか自分も運転したいと思ってました。
 しかし、法律上デフ(ろう)はバス運転手になるための免許が取れなかったんです。
ですから専攻科を卒業した後はPCの勉強をしてたということもあって、銀行の特例子会社でPCの仕事に就きました。
 
ハーマ
卒業後すぐにバス運転手になったわけじゃないんですね。

松山
はい。その(銀行の特例子会社の)あとトラックドライバーに転職しました。

ハーマ
あれ?トラックは改正される前からデフでも運転できたのですか?
 
松山 
運転免許には第一種第二種に分かれてるんです。お客様を乗せることがないトラックを含む第一種免許準中型免許以上は改定以前から(補聴器を装用すれば音の認識が可能な)デフでも取得できました。しかし、(お客様を乗せる際に必要になる)第二種はこれまでは補聴器をつけても、免許を取得することはできませんでした。2016年4月の道路交通法改正により、補聴器をつけてクラクション音が聞こえれば、第二種自動車免許をできるように変わりました。

※第一種普通免許は補聴器を装用しなくとも取得することができる。ただしその場合、通常より大きいルームミラーの装着、蝶々マークを車両の前後につけることが条件になる。

 

運転免許の種類について詳しく知りたい方はこちらまで


ハーマ
そうだったんですね。どうしてトラックドライバーに転職したんですか?
 
松山 
実は私にはマイホームを買うという夢があり、(銀行の特例子会社で働いていた)当時不動産担当に相談してみたところ、「今の収入だとそのマイホームの夢は厳しいです。」と言われました…。
 
ハーマ
なるほど…。それでトラックドライバーに転職されたんですね。
もしかして今その夢は…!
 
松山 
はい。無事叶えることができました。
 
ハーマ
失礼ですけど松山さんまだお若いですよね…?
 
松山
93年生まれで今年27歳になります。

自分と2つしか違わないのにその歳でもうマイホームを買えるってすごい…

やりがいとの葛藤

ハーマ
トラックドライバーの頃について詳しく聞きたいんですが、その会社に入って聴覚障害が理由で困ったことはなかったですか?
 
松山
「実はトラック会社に入った時、他にデフがいなくて、私が初めての雇用だったんです。初め見習いで先輩と仕事を同行した時は、現場の機械音がうるさくてコミュニケーションが取りにくいなどの苦労があったんです。
 ですが、上司が現場を回って耳が聞こえないことを現場の人たちに伝えてくれたおかげで少しずつコミュニケーションが取りやすくなりました。
 私が入社して1年目当時、ドライバー不足の課題があって「デフの仲間を増やしたらどうか」と会社に提案しました。そして、少しずつデフの仲間を増やし、現在その会社では約20名のデフトラックドライバーが在籍し、配送センター現場では手話を覚えてくれる人が増えてきたので、働きやすい環境に変わりましたね。
 
ハーマ
良い上司に出会えたんですね。トラック会社で働いてる時に免許取得条件が改定されたということですが、デフにとっても働きやすい環境に変わったその会社を辞めてまでやはりバス運転士になりたかったんですね?
 
松山
はい。小さい頃からの夢だったこともあるんですが、もう1つトラックドライバーの時にきっかけがありました
 
ハーマ
そのきっかけって?
 
松山
友人をマイクロバスに乗せて観光に行った時ですね。商業目的でなければ当時私が持ってた第一種大型免許でマイクロバスが運転できたので、友人を乗せて観光に行ったんです。その観光の帰りに友人たちから直接感謝の言葉を伝えられたのがすごく嬉しかったのを今でも覚えています。

大きな車を運転できるという意味ではバスとトラックは変わらないかもしれませんが、トラックでは運んだ荷物から直接感謝してもらうことがなく、あまりやりがいを感じられなかったんです。それに対しバスはお客様からの声があるので、それがきっかけでバス運転士になろうと第二種大型免許を取得することに決めました。

全国初のデフバス運転士へ


 
ハーマ
ーー松山さんはデフとして初めてバス業界に入ることになったと思うのですが、雇ってくれる会社はすぐに見つかったんでしょうか?
 
松山
実は全国初デフのバス運転士は私ですが、初めて第二種免許を取得された方は他にいます。
 ただ彼を含めデフである私たちは免許の取得はできても雇ってくれるなかなかバス会社は見つかりませんでした。私は7つのバス会社に応募して5つのバス会社に落とされました。
 
ハーマ
そんなに…!落とされた理由はやはり…
 
松山
はい。どこの会社にも「コミュニケーションの面でうちで働いてもうのは厳しい」と言われました。
 
ハーマ
5つのバス会社に断られたけど6つ目のバス会社でようやく?
 
松山
いえ。実は5つの応募に落ちて6つ目7つ目のバス会社に応募した時、5つ目の応募先「東京バス株式会社」(松山さんの現職会社)から「もう一度話を聞かせて欲しい」という連絡があったんです。

社長西村さんの想い

ハーマ
コミュニケーションの面で厳しいと落とされたのにどうして?
 
松山
東京バスからも社員による面接で一度断られました。
 ですが社員から報告を受けた社長(西村さん)は自身が元々色盲(色弱)の障害があり、過去に職業の選択肢を狭められた苦い記憶がありました。
 そのことから「前回の面接の後から、松山くんの夢をどうやって叶えさせてあげられるのか悩んでいたんだ。正直言って、採用するのには不安がある。しかし、社員全員が協力していくので松山くんも頑張ってくれないか?」ともう一度面接を設けていただき、採用が決まりました。
 
ーーー(社長西村さんは社員から一度目の面接の不採用報告を受けた時、彼を応援したくもう一度面接をしないかと社員のみんなに意見を聞いた。しかし、当時デフがバス運転士として活躍する前例がなく、コミュニケーション方法や安全面、連絡など様々な懸念点があり賛成の声が上がらなかったそうだ。
 しかし、それでも西村さんはずっと彼のことが気になって仕方がなく、松山さん自身の代わりにチャレンジをしてほしいと松山さんを採用することを持ちかけたそうだ。
 なぜ、西村さんはそんなにも彼のことを応援したくなったのか。その理由は面接で伝わった松山さんの熱意にあった。)
ーーー
 
ハーマ
ーー面接の時、コミュニケーション方法について聞かれたと思うんですが、何かアピールしたことはありますか?
 
松山
コミュニケーション方法はこれまでの経験からLINEを使った連絡やブギーボードでの筆談、UDトークの活用などのアイデアを出しました
 また、面接時は自分のタブレットPCを使用し、プロジェクトにつないでタイピングしながらコミュニケーションを進めていきました。
 
ハーマ
その面接の時のコミュニケーション方法は松山さんが自分から提案を出したのですか?
 
松山
はい。トラックの時もバスの時も、面接時のコミュニケーション方法について提案して確認してから受けるようにしました。
 
ーー(松山さんはトラックドライバーの頃に培われた経験を生かして面接時に配慮の方法のアイデアを出したり、自らコミュニケーションの配慮について行動を起こした
 受け身でなく自分から積極的に適合していくその熱意が社長西村さんにとって応援したいと思わせるきっかけになったのではないだろうか。)
ーー

職場仲間たちに募る不安


 
ハーマ
ーー5つ目のバス会社、東京バスに採用して全国初デフのバス運転士になった松山さんですが、おそらく入ってからが本当に大変だったんじゃないでしょうか?
 
松山
おっしゃる通りです。1つ目は職場でのこと。コミュニケーションの面もあるかもしれませんが、私のようなデフがバス運転士として働くこれまでの前例がなかったので、技術面でも不安を抱えた同僚や上司がいました。もちろん応援してくださる人もいましたが。
 
ハーマ
確かに「障がい者」という理由だけで関係ない技術面まで見劣ってしまう方がいますね。今回の松山さんのように前例がないケースでは仕方ないことかもしれませんが…。その職場仲間の不安はどう解消したのですか?
 
松山
ちょうど新人の頃、東京バスの社員で湯河原へバスで行く社員旅行があったのです。その旅行で私が運転するバスに社員のみんなを乗せて連れて行きました。
 
ハーマ
これはめっちゃ緊張するやつだ…!
 
松山
その時はバスの運転こそ経験はあまりありませんでしたが、バス会社に入る前にトラック会社で働いていたので、その経験もあって運転技術を褒められ、みんなに認めてもらえたんです。
 
ハーマ
(すごい…「実力がモノを言う」とはまさにこのこと…!)
 
松山
トラック会社での経験がそこで生きましたね(笑)。

世間の反発

ハーマ
ーーその他にも大変なことがあったんですか?
 
松山
以前、私がバス運転士になったばかりの頃にも「全国初デフのバス運転士」としてメディアに取り上げられたのですが、その時の世間の声がすごかったです。2チャンネルにも私のことが書かれていてびっくりしましたね。
 
ハーマ
あの2チャンネルにですか!?どんなことが書かれてたんですか…?
 
松山
もしものことがあったらどうするつもりだ!?」とかそういうコメントがありましたね…。
 
ハーマ
友人とか知り合いの中だけならまだしも、世間からそのような声が上がると精神的にきついですね…。その時松山さんはどうしてたんですか?
 
松山
2チャンネルなどは極力見ないようにしていましたね。見てしまうとやはりそれだけ自分が苦しくなるだけなので。でもバス運転手を続けていたら、最近そのような声を聞くことはほとんどなくなりましたね。
 
ハーマ
デフでも関係なく運転士ができるという認識がだんだん広まってきたんですね。よかったです。
 
 

松山さんのポジティブ思考


 
ハーマ
ーー松山さんはこれまで不安や批判の声があり、幾多の苦労がありながらもどうしてここまでやり切れたんでしょうか?
 
松山
今思い返すと、私には「ポジティブな気持ち」があったからかなと思っています。障がいを持つことはそれだけ社会に出るハードルが上がってしまうので、私を同じ障がいを持つ周りの人や家族も姉以外全員デフで、社会に関してはネガティブだったと思います。それでも私はデフであろうと「絶対になれる。」そういうポジティブな気持ちを忘れず挑戦し続けたので、今こうやって周りの協力のおかげもあってこうして夢のバス運転士になれました。
 
私がかつてそうだったのですが、バス運転士やパイロットだけでなく、様々な仕事の選択肢が「自分がデフだから。」という理由でなくなるという事実はまだ今も存在してると思います。でもだからこそポジティブな気持ちを忘れず挑戦し続ければ、きっと認めてくれる人が少しずつ出てくると思います。だから皆さんもどうか何か障がいがあるという理由で夢を諦めて欲しくない。心からそう願っています。
 
ハーマ
デフのバス運転士も現状少ないですしデフのパイロットも現状聞いたことがないので、まだいないと思いますが、いつか(バスやパイロットを含め)様々な業界でデフの人が活躍しているという情報が聞けることを楽しみにしています。
 
 

松山さんのメッセージ

ハーマ
ーーバス運転士になって嬉しかった出来事はありますか?
 
松山
たまにデフのお客様を乗せることがあるのですが、デフファミリーらしきお客様方から感謝の言葉をいただいた時は、同じデフの人として嬉しかったですね。
私は現状ではデフが気軽に参加できる観光バスツアーがあまりないのです。ですからこれから(デフが気軽に参加できる)機会を増やしていけたらなと思っています。私もそのデフのお客様に対して手話で案内するなど、デフの私だからこそできることがあると思います。
 
ハーマ
今までコロナの影響もあってなかなか厳しいところがあったかもしれませんが、これを機にもっと増えてくれるといいですね!
 
 
ハーマ
ーーいよいよ最後になりますが、このインタビューを通して松山さんが皆さんにお伝えしたいことはありますか?
 
松山
最近手話が共通言語になる「スターバックス サイニングストア」がオープンされて話題になってますし、SNSで手話に関する動画が増えたりと、デフに関する情報がどんどん発信されてきて嬉しく思います。
 デフに関する情報が増えれば、それだけ理解が進んでデフの人にもっと社会での選択肢が増えるようになると思います。
 
私もこれからメディアやSNSを通して積極的に発信していきますので、皆さんも何か困ったことや嬉しかったことなどあればどんどん発信していきましょう!。

「スターバックス サイニングストア」についての公式ページはこちら


 
 

取材後記


 
松山さん、今回はお忙しい中インタビューに応えていただいてありがとうございました。
 
松山さんは自分が働きやすい環境を整えるために、配慮方法を自分で考えたり積極的に会社の人に相談しているそうです。
 
そしてそれだけではなく、周りの配慮があっても決して自分に甘えることなく、「自分でできることは責任持ってやる」というその姿勢と行動力が周りにとって何か手伝ってあげられることはないかと考えさせられる存在になっているのだなと感じました。
 
仕事に対して自分が「プロフェッショナル」であるという意識を持って取り組む姿勢は障がいの有無関わらず、私たちに必要なことなのかもしれません。
 

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(執筆:ハーマ)
(編集:ハーマ)
(写真:アシスタント)